Scopes
視野の範囲

2021年7月13日(火) - 8月7日(土)
12:00 - 18:00
日・月・祝 休廊
Warm Broad Glow (Reversed)

©︎2021 Glenn Ligon

Sho+1では7月13日より「 Scopes 視野の範囲 」展を開催いたします。

アンディ・ウォーホル、 バーバラ・クルガー、ジャスパー・ジョーンズ、ジャン=ミッシェル・バスキア、ロバート・ロンゴ、ロブ・プルイット、ニキ・ド・サンファル、ラメルジー、グレン・ライゴン、坂本善三、三澤憲司、原神一赤西千夏、鴻池朋子

アンディ・ウォーホルがまだ商業デザイナーだった頃、イラストの仕事を請け負う宣伝材料としてニューヨークの広告代理店へ配布する為に制作した「薔薇を持った刺青の女性」、そしてローリング・ストーンズのリーダー、ミック・ジャガーの版画制作をウォーホルが行ない、そのお披露目の展覧会を開催する際に配った招待状をご紹介します。バーバラ・クルガーは短いフレーズを使い、ゾクゾクするほど面白く、未来を予言するような作品を作り出し、アメリカの広告やメディアが使う言語をアートへと昇華することで有名ですが、中でも「私はショッピングする 故に私は存在する」は消費を愛して止まないアメリカ人が最も好むスローガンと言えるでしょう。 
ジャスパー・ジョーンズは夢に見た星条旗を実際に描くことで有名になったアーティストですが、既存のイメージの中でミニマルかつ抽象的なモチーフとして数字を数としての意味ではなく、文字の形を重視したシリーズです。「フィギュア3」はカラー・ヴァージョンも存在しますが、本作の白黒の方がよりジョーンズの制作の本質に近い感じに思えます。 
ジャン=ミシェル・バスキアは80年代のグラフィティ・アーティストの代表格の一人ですが、絵を描き始める前にGRAY(グレイ)という伝説的音楽バンドで活動していました。バスキアはその音楽活動中に様々なミュージシャンと出会い、今回紹介するパンク・バンドThe Offs(ギター、ビリー・ホーク、ヴォーカル、ドン・ヴィニルにより1978年にサンフランシスコで結成された)が1984年にリリースしたファースト・アルバム、”The Offs “のレコード・カバーのアート・ワークを手掛けました。このレコードの初版版は370枚限定で希少性が高く、バスキアのコレクターの中でも重宝されています。 
ロバート・ロンゴは1980年代初頭に起こったニュー・ペインターの台頭の一人として、人間がショックを受けたような瞬間的な動きを鋭い観察力で描いた「メン・イン・ザ・シティ」のシリーズで脚光を浴びたアーティストです。彼の制作戦略の根源にある社会全体からイメージとフォルムを借用し、表現するという点において、アメリカのガン・ポリティックスにスポットをあてた本作「」はむしろロンゴ自身が訴えたい大きなテーマの一つであったように思えます。 
ロブ・プルイットはコカインのブッフェなど、破天荒なパーフォーマンスで物議を醸し出すアメリカ人のコンセプチュアル・アーティストとして名を成しました。彼の代表作として現在でも常に人気の高い作品に絶滅危惧種種であるパンダをモチーフにしたシリーズ作品がありますが、本展では金色に輝くパンダが描かれた「カントリーガール」を紹介します。 
ニキ・ド・サンファルはフランスの画家、彫刻家、造形作家、映像作家として、国際的に名を知られ、特に女性性を肯定・強調する《ナナ》シリーズでアーティストとしての地位を不動のものとしました。家庭内では常に権力的であった父から11歳の時に性的暴行を受け、母からは男性に従属する生き方を強いられ、ニキは次第に人間不信に陥り、何年間にも渡り孤独感に苛まれ、社会や法により排除された人々との連帯感を強めることになりました。1967年に描かれた「無題」は女性同士の同性愛を象徴する一枚と男性自身を侮蔑する一枚がカップリングされている興味深い構成で表現されています。制作することによって自分自身と対話してきたニキらしい作品です。 
ラメルジーはニューヨーク出身のアーティストで、映像、グラフィティー・アート、パフォーマンス・アート、ヒップ・ホップ・ミュージック、芸術理論とマルチな才能に溢れ、多岐の分野にわたり制作活動を行っていました。特に本作、「ワイルド・スタイルへの献辞」に描かれている「ゴシック・フューチュアリズム」の定義は社会における文字の役割の書き換えを提唱する、ラメルジー自身の創作理論そのものとして、ラメルジーと言うアーティストを理解する根幹となっています。 
グレン・ライゴンは特にアメリカにおいて、黒人が差別されることをテキストの形でヴィジュアル化し、訴えるアーティストとして、1990年代初頭から注目されてきました。本展でご紹介する作品「Warm Broad Glow」に描かれているテキスト「Negro Sunshine = 黒人に輝かしい未来を」は元々ネオン管を用いた光源体の作品として発表されました。ライゴンはこのタイトルをアメリカの著作家、詩人、美術収集家であったガートルード・スタインが1909年に出版した「3人の女」から引用しています。 
坂本善三は1911年から1987年まで活動した、「グレーの画家」と呼ばれる、グレーと黒を主体として描く抽象画家です。有明という特定の場所を描いたものか、本来の有明の意味=月が空に残りつつ夜が明けるイメージを表現したものか、作家のみが知るところだと思われます。絵から伝わってくる印象により見る者に委ねられて良い作品だと感じます。 
三澤憲司の「生死の秘密」は三澤が正に脳腫瘍の手術から生還し、生と死の狭間を彷徨った記憶の中から生まれました。ここには苦しみ、もがき生きる三澤の生への執着がエネルギッシュに見てとれます。
原神一の新作「HEAVEN FRUIT-1」「HEAVEN FRUIT-2」は、原の制作のテーマである愛のある世界、平和、希望といった側面を女性の身体を通して表現しています。ねじれた裸体は時空を漂い、肉体を離れた魂は宇宙につながっていくかのように浮遊しています。
赤西千夏は昨今アジア圏で大人気の「かわいい」系絵画と一線を画す、流行に流されない感性で、時にマネの「草上の昼食」に描かれている人物を女形のヴィジュアル系ミュージシャンに置き換えたり、ジェンダーに関するテーマを掘り下げ、独特のタッチで描く新しいタイプの作家です。「春を待つ薔薇」と題された本作は、赤西自身のセルフ・ポートレートです。
鴻池朋子は、アニメーション、絵本、絵画、彫刻、映像、歌、影絵、手芸、おとぎ話など、あらゆるメディアを使って観る者の想像力を飛び越え、時に裏切り、慣習に捕われる事のない力強い作品を発表し続けています。2006年に発表された「地球断面図」は、地球の重力と自らの表現との絆を通じて、日々制作を営む際のまなざしの行方、思考の構造、イメージの所在、道具や技術などを壮大なスケールで表現しています。